空想と現実と。エクセルシオの気ままなブログ。
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カポーティ
【映画感想】
カポーティ
"Capote"

「悪魔に魂を売り渡してでも」という表現を、たまに目にする。
映画でも主人公が悪魔が通して何かを手に入れ、その代わり大きな代償を支払うというストーリーは割とある(近頃、脇役として復活気味の80年代スターの映画にもそういうものがあった)。この映画は実在の作家トルーマン・カポーティが作品『冷血』(これは犯罪ノンフィクション小説の先駆けとなったものだそうで)を書き上げる過程をスケッチしたものであり、もちろん、悪魔などというものは登場しない。けれど「悪魔に魂を・・・」という行為に人を走らせてしまうもの、そして引き換えに失うものの重み、そういうものを描き切ったという意味ではオカルティックな映画よりも余程凄みがある。

フィリップ・シーモア・ホフマンの演技がとかく評価された映画だけれど。奇を衒ってはないが演出の方にも見るべきものがある。葉が落ちた木がぽつんぽつんと立ち、だだっ広く、寒々しい冬のカンザスを捉えた象徴的で写実的なショット。それはそこで起きた出来事の薄ら寒さを強調する。他にも、人物のアップを多用するのではなくシネスコの横長の画面を活かした構図などは、70年代の映画のようでもあり(ぼくの17インチのTVでは少々見づらい場面も)そういう人物と一歩距離を置いた感じの冷静な演出な隅々まで行き届いている。それでいて冗長さを感じさせないのは、監督曰く「観客がもう少し見たいと思う一歩手前で切った」という編集の上手さ、ミステリ/サイコスリラー的な趣のある脚本の上手さもあるのだろう。殺人犯と聞き手の物語ということもあり、「羊たちの沈黙」を連想したりもした。尤も、この映画ではどちらがレクター博士でクラリスかはあやふやだけれど。

映画は静かに静かに主人公カポーティの心のゆらぎを描いていく。
描き出される彼の姿は複雑だ。公の人間として華やかな名声を求め、一人の人間として取材対象に感情移入し、その取材対象の感情を踏みにじってでも作品を書き上げたいという感情に突き動かされ、そしてその相反する感情を友人に吐露する。物語が進むごとに彼の内にある感情は高まり、相克し、捩れ歪み、そして終には虚脱の念に苛まれる。そういう心理ドラマを台詞で表現してしまうような野暮な真似を、この映画はしない。彼の一挙一動を切り取って見せるだけだ。それでも内面に渦巻く複雑な感情が手に取るように分かる。
彼の言葉には大抵嘘がある。矛盾がある。いや彼自身、自分の感情をどう処理すればいいか分からなかったのかもしれない。殺人犯ぺリーに深入りするトルーマンを心配する友人の女性作家に、彼はこう言う。「愛情を抱きながら利用することなんて出来るかい?ペリーと僕は同じ家で育った兄弟のようなものさ。ある日、彼は裏口から出て行ったけれど、ぼくは正面玄関から出ていったのさ」。この言葉ペリーとの関係を見事に表している印象的な台詞なのだけれど、はたしてカポーティの心理はそんな風に割り切れるものだったろうか。疑問に思う。クライマックス、ペリーへの悲痛な思いが頂点に達したカポーティが見せる張り裂けさそうな表情!役の心理を言葉でなく表情で見せきったホフマン氏の演技は俳優の鑑。素晴らしい、の一言。

さて。この映画はあくまで作家トルーマン・カポーティの心理に焦点を当て、殺人犯ペリー・スミスのそれは深くは追求しない(『冷血』を読んでくれ、ということか)。とはいえ必要最小限に彼の姿も描かれている。殺人犯ながらペリーを人間として苦悩する存在として描きつつも、ペリーの姉に「弟は握手するように人を殺す人間だ」と言わせたりする。その相反する姿は、カポーティ自身の姿と重なって見える。
罪を犯す人間も苦悩する人間だからといって、その罪が許されるとは思わない。犯した罪は罰せられるべきだし、償われるべきもの。ただ思うのは、そういう人間に宿ってしまう悪魔は誰にも潜んでいるものだということ。姿形を変えて。この映画で作家トルーマン・カポーティも悪魔を引き出してしまった。いい作品を書き上げるという目的のために。新しい本のスタイルを構築したという作家としての名誉と引き換えに支払った代償はあまりに大きかった。『冷血』というタイトルが皮肉なものになってしまった。彼は法で罰せられるような罪を犯したわけではない。が、その罪を彼自身が誰よりも深く自覚し被ってしまった。映画はラスト、静かに溶暗する。感じるのは、やり場のない罪悪感。絶望感。カポーティが自ら引き出した闇の深さに、ただ打ちのめされる。

カポーティ
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テーマ:映画感想 - ジャンル:映画

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